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大阪家庭裁判所 昭和45年(少イ)1号 判決 1971年8月02日

主文

被告人を懲役一年二月に処する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

第一、罪となるべき事実

被告人は、昭和四四年六月末ころから同四五年二月二四日までの間大阪市浪速区元町二丁目九七番地の一新湊町ビル七階において、クヲブ「前衛」を経営し、客に飲食物を提供するほか、ヌードシヨウや全裸ないしこれに近い姿で女性らが演ずる俗に「白々」、同様の姿で男女が演ずる俗に「白黒」などの性交類似シヨーを行なつていたものであるが、

一、法定の除外事由がないのに、児童である佐島敏信(昭和二七年三月二九日生)を適切な年令確認の方法を尽さないで、昭和四四年七月中旬ころから同年八月始めころまでの間右「前衛」のボーイとして雇い入れ、その間同店において、前記各シヨーが実演される午後六時ころから同一二時ころまで客に対する飲食物の提供、接待等の業務に従事させ、もつて、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、同人を、右勤務時間中、自己の支配下に置いた

二、法定の除外事由がないのに、児童である井上高徳(昭和二六年一二月四日生)を適切な年令確認の方法を尽さないで、昭和四四年九月一〇日ころから同月二五日ころまでの間右「前衛」のボーイとして雇い入れ、その間同店において、前記各シヨーが実演される午後六時ころから午後一二時ころまで客に対する飲食物の提供、接待等の業務に従事させ、もつて、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、同人を、右勤務時間中、自己の支配下に置いた

三、昭和四四年八月中旬ころ、児童である渡辺朝広(昭和二七年三月二八日生)を適切な年令確認の方法を尽さないで前記「前衛」のボーイとして、雇入れ、その後シヨーマンとして、同年九月始めころから同月末ころまでの間飲食客が観覧する同店の床面において、安本よし子こと安富子を相手として約四〇回位、前記「白黒」と称する男女の性交類似行為の一種で、所謂「強姦」を模した「強姦シヨー」を全裸でなさしめ、もつて、児童に淫行をさせ

四、同年一〇月中旬ころ、児童である中野和親(昭和二八年七月一〇日生)を適切な年令確認の方法を尽さないで前記「前衛」のボーイとして雇い入れ、その後シヨーマンとして、同年一一月始めころから昭和四五年二月二四日までの間飲食客が観覧する同店の床面において、前記安富子を相手として約一〇〇回位、前記「強姦シヨー」を全裸でなさしめ、もつて児童に淫行をさせ

五  昭和四五年二月二日ころ、児童である浜崎惣一(昭和二八年二月一一日生)を適切な年令確認の方法を尽さないで前記「前衛」のボーイとして雇い入れ、その後シヨーマンとして、同月七日ころから同月二四日ころまでの間、飲食客が観覧する同店の床面においてトミ子こと高橋登美子やサチ子こと岩橋幸子らを相手として約二一回位、前記「白黒」と称する男女の性交類似行為を全裸でなさしめ、もつて児童に淫行をさせ

たものである。

第二、証拠(省略)

第三、累犯前科

被告人は、昭和四〇年一二月一五日大阪家庭裁判所で児童福祉法違反罪により懲役一年二月に処せられ、同四二年六月一三日右刑の執行を終つたもので、右事実は、検察事務官作成の前科調書により、これを認める。

第四、(弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人は、被告人が児童たる佐島、井上らを自己の支配下に置いた事実はないと主張する。前掲証拠によると、佐島、井上らがそれぞれ自己の住居から被告人の前示店舗に通勤し、料給も日給制であり、また被告人との雇傭契約をいつでも自己の意思のみによつて破棄できる状況にあつた事実は認めるが、他方、一且前記「前衛」に出勤した以上、出入口が一ケ所しかない十坪位の店舗から被告人の承諾なくしては無断で外出したりすることはできず、前判示のヌードシヨウ等が実演される午後六時から同一二時ころまでの間は、ほぼ完全に被告人の指揮、監督に従い、ボーイとして勤務していたものであつて、右児童らが、右時間内、被告人の支配下にあつたものと認めるに充分である。そして、児童福祉法第三四条一項九号所定の「自己の支配下に置く」との意味は、被告人の右児童らに対する前示のような時間内の支配状態をも含むものと解すべきである。

二、次に、弁護人は、児童福祉法第三四条一項六号所定の「淫行」とは、刑法第一八二条の「淫行」即ち異性間の姦淫行為を意味し、前判示のごとき性交類似行為は含まないと主張する。しかし、右児童福祉法上の「淫行」が、右刑法条文の「淫行」と用語が同一であるからといつて、両者同一に解釈すべき必然的理由は見当らない。児童福祉法第六〇条一項において、同法第三四条一項六号違反の罪に対し右刑法第一八二条の所定刑よりはるかに重い一〇年以下の懲役刑を規定する趣旨は、児童福祉法が、精神面、情操面の発達未熟で他から影響され易い児童の心身を、その正常な発達に有害な行為から守り、児童を健全に育成しようとする立法趣旨に則つたものであるから、右同法第三四条一項六号の「児童に淫行をさせる行為」の意義も、前記児童福祉法の立法趣旨から、その解釈をなすべきものである。右のような考えによれば、前記児童福祉法上の「淫行」とは異性間の姦淫行為は勿論のこと、その類似行為、手淫、口淫(被告人が尺八と称するもの)、肛淫(被告人がバツクと称するもの)、触淫(被告人が素股と称するもの)、さらには、いわゆる獣姦、鶏姦等の各行為をも含むものと解するのが相当である。けだし、以上の各淫行を児童にさせる行為は、そのいずれをも、通常、大人の場合に比して、容易に児童の健全な心身の発達を阻害し、その精神面、情操面に多大の有害な影響を与えるのであろうことは必至であり、前記立法趣旨により設定された児童福祉法第三四条一項六号、同第六〇条一項の罰条に低触すると認められるからである。被告人は、前記判示第一の三ないし五のとおり、児童である渡辺朝広らをいずれも男女間の性交類似行為を全裸でなさしめたものであり、しかも、内判示第一の三、同四の淫行行為は、強姦を模したものであつて、到底前示条項により処罰を免れないというべきである。

三、また、弁護人は、被告人が、前判示の各児童を雇傭するに際し、年令確認に努力を払つた旨主張するが、本件証拠を検討するも、被告人は、右各児童の外観や自己が満一八才以上である旨の陳述を信用し、さらに使用者として、各児童の戸籍謄本等によつて確認するといつた確実でしかも容易な方法(労働基準法第一一一条によると、使用者は右謄本を戸籍事務担当者に無料で請求し、これを取り寄せることができる)を購じないで、右児童を使用したものであつて、児童福祉法第六〇条三項所定の年令確認について過失がなかつたとは認め得ない。

第五、法令の適用

被告人の判示第一の一、二の各所為は、いずれも児童福祉法第三四条一項九号、第六〇条二項に、第一の三ないし五の各所為は、いずれも同法第三四条一項六号、第六〇条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、右判示の各罪は前示前科との関係で再犯であるから、刑法第五六条一項、第五七条によりそれぞれ累犯加重をなし、以上は同法第四五条前段の併合罪になるので、同法第四七条本文、第一〇条により犯情の最も重い判示第一の四の罪の刑に法定の加重をした刑期(但し同法第一四条の制限内)の範囲内で被告人を懲役一年二月に処し、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条一項本文を適用して全部被告人に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

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